特集:スイスデザインの世界

近代建築の父といわれるル・コルビュジェの生地で、ヘルツォーク&ムーロン、ペーター・ツントー、カラトラヴァなど、話題の建築家の作品を各所でみることができるスイス。ヨーロッパの中心地として隣国の影響を受けつつも、永世中立国として独自の道を歩んできたスイスは、デザインの分野でも質の高さとユニークさで世界的に有名です。とくにスイス人気質は、実用性と機能性を追求したシンプルなデザインや手仕事の伝統と最新技術を融合させたものなど『スイスメイド』のプロダクトにいかされています。
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そんな世界に誇るデザインの国スイスの全貌を紹介する特別展「スイスデザイン展」が、日本・スイス国交樹立 150周年の記念事業として、1月17日から3月29日まで東京・新宿の東京オペラシティアートギャラリーにて開催され、7月11日から8月23日まで静岡県立美術館、9月9日から11月8日まで札幌芸術の森美術館に巡回されることになりました。

1864年に締結された通商条約に始まる両国の交流の歴史を導入として、近代デザインの草創期から、その開花を迎える20 世紀、そして多様な価値観とアイデアの展開する現在まで網羅しています。鉄道や航空など「観光」におけるデザイン、スイスの時計やアーミーナイフ、靴、ファブリック(布・繊維製品)、家具などスイスブランドの取り組み、ル・コルビュジエとマックス・ビルという二人の巨匠の仕事や新しいデザイナーたちの最先端の作品など、バリエーション豊かに世界に誇るスイスデザインの世界を幅広く紹介している注目の展覧会です。

★本ページで紹介している展覧会写真は、東京オペラシティ アートギャラリーで開催された「スイスデザイン展」のイメージです。静岡、札幌で開催される巡回展では会場の関係から展示イメージが異なる場合があります。

展覧会情報
〜日本・スイス国交樹立150周年記念〜
「スイスデザイン展 SWISS DESIGN」
会期: 2015年7月11日(土)〜8月23日(日)
会場: 静岡県立美術館
開館時間: 10:00〜17:30(最終入場は閉館の30分前まで)
休館日: 月曜日(7月20日除く)、7月21日
入場料: 一般/1,000円(800円)、70歳以上/ 500円(400円)
大学生以下無料
* ( )内は前売および20名以上の団体料金
WEB:
静岡県立美術館ホームページ

★2015年9月9日(水)から11月8日(日)まで
「札幌芸術の森美術館」で開催予定

観光・交通のデザイン
観光立国といわれるスイス。現在にも通じる交通網が19世紀から整備されるとともに発展していったスイス観光におけるさまざまなデザインは、スイスのデザインの水準の高さを示すとともに、スイスという国のあり方も象徴しています。2020 年に東京オリンピックを控えた日本にも通じる今日的なテーマでもあります。「スイスデザイン展」では、1931年設立されたスイス航空(現・スイス インターナショナル エアラインズ)のデザイン、スイス国鉄の駅に設置されている鉄道時計、観光ポスターのいろいろを紹介しています。
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2014/2015年の冬季シーズンは、スイスで最初に冬の観光がスタートしてから150周年となる節目の年として「ウインターツーリズム150周年 」を祝っています。冬季観光の発祥地で、冬季オリンピックが二回開催されたサン・モリッツでは鉄道駅と町を結ぶ地下駐車場のエスカレーター沿いに設置された「サン・モリッツ・デザイン・ギャラリーSt. Moritz Design Gallery」で、1911年から2013年まで有名アーティストが手がけたポスターの数々を無料で楽しむことができます。

ウインターツーリズム150周年 クラシックポスター・ギャラリー(スイス政府観光局の冬季キャンペーンポスターを紹介) サン・モリッツ/ウィンターツーリズム150周年記念事業

スイス連邦鉄道のオリジナル時計

世界屈指の鉄道王国スイス。駅には時刻表が分かりやすく各所に掲示されており、あちこちに大きな時計が配置されています。旅行者がスイスの思い出として記憶に残すその駅の時計は、スイス連邦鉄道(スイス国鉄SBB/CFF/FFS)のオリジナル。正確に時刻を知らせるだけでなく、スイスらしさを表現する時計をつくりたいと考え、同社のエンジニア兼デザイナーだったハンス・ヒルフィカーHans Hilfikerが1944年にデザインしたものです。

遠くからでもよく見えるようにつけられた大きく赤い円形の印象的な秒針は、かつて駅員が列車を誘導する際に用いた赤と緑の丸板がついた信号棒「シャフナーケッレ Schaffnerkelle」をイメージ。その秒針が1周するごとに毎分切り替わりのところで1.5秒ストップする、という特徴は他の時計にはないユニークな点です。デザイナーのヒルフィカーは、ふと時計を目にとめるように注意を喚起させるための目的と、列車がすべての運行を終えて時間通りに静かに車庫に入っていくシーンをイメージしたと後に語っています。

スイスブランドの物づくりとデザイン
「スイスデザイン展」では、靴やバッグの<バリー>、アーミーナイフの<ビクトリノックス>、モジュール式収納家具の<USM モジュラーファニチャー>、高級インテリアファブリックの<クリスチャン・フィッシュバッハ>、アルミボトルの<シグ>、積み木などの玩具メーカー<ネフ>、トラックの使用済みの幌(ほろ)を使ったバッグ類で知られる<フライターグ>、新しいデザインを次々と生みだすプラスチック製クォーツ時計<スウォッチ>というスイスを代表する8ブランドの取り組みと、そこで受け継がれるデザイン理念を、ブランドごとに異なるダイナミックな展示によって紹介。バリー創業時の靴の型紙や部品や、珍しい素材を使ったビクトリノックスのアーミーナイフなど、普段はみることができない貴重なコレクションが一同にそろっています。
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バリーの聖地 シェーネンヴェルト

リボン類を製造していたカール・フランツ・バリーがパリ出張時に靴づくりへの技術の応用を思いつき、弟のフリッツとともに1851年に「バリー」を創業。シェーネンヴェルトSchonenwerdにある自宅の地下で靴製造を始めました。現在、本社はカスラーノに移っていますが、かつて本社や工場のあったシェーネンヴェルトには、バリー創業時からの歴史をみることができる記念館のほか、創業者の邸宅につくられた靴博物館もあります。

バリーの靴や約3000年前の古代エジプトの靴から中国、南米、中世ヨーロッパまで各国の珍しい靴など世界の靴の歴史を網羅する素晴らしい靴コレクションが限定公開されています(毎月末の週末のガイドツアーのみ/グループは要相談)。さらにバリー直営の人気のファクトリーアウトレットショップがあり、2013年から駅前の大型アウトレット「ファッション・フィッシュFashion Fish」の1号館に統合されました。

Fashion Fish/ Factory Outlet Schonenwerd Bally-Schuhmuseum/ Gemeinde Schonenwerd
 (独語のみ)

スウォッチ・ミュージアム

16世紀の宗教改革に始まるスイスの時計産業が発展した中心地として名を轟かせたジュネーヴ。時の殿堂にふさわしい町の中心にある歴史的なマシーヌ橋Pont de la Machine(機械橋)につくられた「シテ・デュ・タン(時の都)」には、「スウォッチSWATCH」が登場した1983年から現在までにリリースされたモデルをみることができる常設展があります。数多くのアーティストが手がけたカラフルで、個性的なデザインは必見です。

シテ・デュ・タン (スウォッチ・ミュージアム)

ビクトリノックス・ミュージアム

1884年スイスのシュヴィーツ州イーバッハで創業したビクトリノックス。創業者カール・エルズナーが開発し、後にスイス軍に採用され成功したツールナイフは、"スイスアーミーナイフ"として、世界中で愛されるスイスの銘品となりました。現在も本社があるシュヴィーツ州の中心地ブルンネンにビジターセンターがオープン。ブランドの歴史を紹介するミニシアター、ブランドショップのほか、地下のミュージアム・スペースではビクトリノックスの代表的なモデルの展示のほか、インターアクティブに体験できます。入場無料。ブルンネン港から約100m。

Swiss Knife Valley VISITOR CENTER/ Victorinox Brand Store & Museum

ル・コルビュジエとスイスデザイン
近代建築の祖としてあまりにも有名なル・コルビュジエ。スイスのラ・ショー・ド・フォンに生まれた彼の活動の根底には、素材や伝統、そして自然に対する細やかな感性、そして合理性、機能性、普遍性に対するあくなき信頼といった、スイス的な特性が脈打っています。「スイスデザイン展」では、スイスに残るル・コルビュジエ作品を中心に、代表作品や設計案にみられるスイスらしさやデザインを再考して紹介しています。
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初期のル・コルビュジエ建築が残るラ・ショー・ド・フォン

ル・コルビュジエが生まれたのは、フランス国境近くのジュラ高地で時計産業の中心地として発展してきた小さな町。伝統の時計産業のために計画的に再建された機能的な町で、2009年から隣町のル・ロックルとあわせて世界文化遺産に認定されています。

私邸なので外観からの見学になるが「ヴィラ・ファレVilla Fallet(1905/1906)」「ヴィラ・シュトツァーVilla Stotzer(1907/1908)」「ヴィラ・ジャクメVilla Jaquemet(1907/1908)」など、彼の初期建築の数々を見ることができます。現在は時計メーカー「エベルEbel」の所有になっている「ヴィラ・シュウォブ/ヴィラ・トゥルクVilla Schwob/Villa Turque(1916/1917)」もパリにいく前に完成させた代表作です。また、街はずれの高台にコルビュジエが両親のために建てた「メゾン・ブランシュ(白い家)Maison blanche」は、一時、廃墟になっていたものだが、当時の写真や図面を参考にして当時と同じように修復され、現在はミュージアムとして一般公開しています。

ジュラ地方の小さな旅:ラ・ショー・ド・フォン La Maison Blanche

ル・コルビュジエ最後の作品となったミュージアム

有名なコルビュジエ・チェアの商品化を実現した、ル・コルビュジエのビジネスパートナーであり友人であったハイディ・ウェーバーが、彼に熱心に制作を薦めたリトグラフ作品など多数のアートコレクションを展示するために、ル・コルビュジェに設計を依頼。チューリヒ湖畔の公園内に建つカラフルな建物は、最終完成前に彼が亡くなり、彼の最後の作品となりました。建築家、技師、数学者で画家で建築家、詩人と多才な面を発揮したル・コルビュジエという人の人生すべてがつまったミュージアムといわれています。

コルビュジェ・センター
(ハイディ・ウェバー・ミュージアム)

両親のためレマン湖畔につくった優しさあふれる"小さな家"

ラ・ショードフォンより温暖なレマン湖畔のヴヴェイ郊外コルソーCorseauxには、年をとった両親のため、ル・コルビュジェが従兄弟のピエール・ジャンヌレと共に1923/24年に設計した湖畔の小さな家(ヴィラ)「ル・ラック(湖)」があります。

天井をサンデッキ&ガーデンとして利用、窓を水平方向に帯のように横長に並べて構成したリボンウィンドウ、天井からの灯りが降り注ぐトップライトの窓、コンパクトで機能的に作業ができるレイアウト、湖の景色がまるで絵画のように切り取られた庭のコーナーなど、さまざまな工夫にあふれた家になっています。

1924年に両親は移住。父親はわずか1年の居住となりましたが、母親は100歳の誕生日までこの家で暮らしていました。その後、兄のアルベール・ジャンヌレが晩年まで暮らしたこの家は、1984年から限定的ですが一般公開され、2010年からミュージアムとなりましたが、2012年からは修復作業が開始されたため、一時閉館されていましたが、2015年6月5日から9月27日までの金・土・日(10:00〜17:00)オープン予定。

Villa < Le Lac> Le Corbusier